もしもの話

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昔から俺は、自分の言葉に怯えていた。 言霊とでもいうのだろうか。言った事が、実際に起きる。それはさっきみたいな悪い事でも、良い事でも同じだ。 例えば良い事なら、授業中誰でも考える『当たるな』。それを小さくとも口に出して言えば、必ずと言っていいほど当たらない。 逆に『今日当たればいいな』なんて言えば必ず当たる。 それを自覚したのが六年くらい前。初めて叶えた願いは何だっただろう。確かその日の晩御飯だ。自覚したのはその少し後。 何もかも言った通りになる世界ほど、楽で退屈で恐ろしい世界はない。 数日の内に、その頃は五キロくらい痩せた。今でもまだあまり体重は戻ってない。身長は確実に伸びるのに。 しかし先程の、白川の場合。白川は椅子から落ちなかった。 実はこの六年間、一つ判った事がある。 白川には言霊の効力が中途半端なのだ。 それはこの六年間、俺がようやく突き止めた希望である。 出来る事は色々やった。日常の枠を越えない範囲。偶然の範疇に入る程度に。 あの服が欲しい。席は窓際がいい。今日はカレーが食べたい。新しいゲームが欲しい。 もちろんそれらは全て叶った。
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