誘拐事件

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その単純な行為にもイラ立ちを覚える丈治だったが、湯飲みに怒りをぶつける訳にもいかず、そのままテーブルに置いてテレビでも観る事にした。 そんな丈治を見た信太は、殴られた痛みから頭を擦っていた手を離し、通路に向かって手を軽く二度叩いた。 するとその音が合図なのか、豆鬼が作っていた式神の子供が入って来た。 信太 「お茶を2つくださいな」 信太に指示された式神は無言でうなずき、お茶を運びに部屋を出て行った。 そして信太が丈治の様子を見ると、まだ不機嫌なまま、丈治はさっきの手品番組を観ていた。 信太 「え、えっとぉ……そ、それにしても、人間って凄いですよね?」 丈治 「……なにが?」 信太 「何って、このマジックですよ。こんな事出来たら超能力者と間違われて仕方ないですよね?」 丈治 「なんだよソレ…。普通の人ならともかく、アンタにも見えてただろ?死角をつきながら高速で入れ替えたの」 信太 「いえ、見えてませんよ?。と言うより、見てません」 丈治 「見てないって…アンタもテレビ観てたじゃねえか」 信太 「えぇ、確かにテレビは観ていましたが、タネが分かるような見方はしていなかったんですよ」 丈治 「また訳の分からない事を…」 信太の説明に『もう付き合いきれない』と思った丈治が呆れながら再びテレビを観ると、先ほどの式神がお茶を運んで入って来た。 信太 「はい、ありがとう~」 信太は空になった丈治の湯飲みと自分の湯飲みを渡し、新しく来た湯飲みの一つを丈治の前に置いた。 そして式神が一礼して出て行くと、信太は来たばかりのお茶をすすりながら話しの続きを話し出した。 信太 「あちちち…確かに我々の動体視力を持ってすれば、先ほどのマジックはすぐに見破れます。その気になれば飛び交う弾丸ですら避けられますからね」 「ですけど、そんな風に全てを見ていたらこのような番組が楽しくないじゃないですか」 丈治 「そりゃまぁ…そうだけどさぁ…」 信太 「前田さんも、今のが見えてたから面白くないじゃないですか?」 丈治 「……まぁ…確かにな…」 信太 「でしょ?だから敢えて見ないようにして楽しむの事も大切なんですよ。短い人生、色々と楽しまないと」
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