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だから彼女はどんなに孤独であっても、動物は飼うつもりはなかった。
でも、堪らなく他の生き物といたい時の為に、動かない、冷たい、でも人間が干渉しないと生きていけない植物を買った。
いつからか、律子の部屋は植物で埋め尽くされた。
「どうしてウサギさんを投げたの?可哀想でしょう、こんなに小さくても生き物なのよ」
そう言って担任は律子をひどく怒った。
教師になって間がなく、担任を初めて任された彼女は、子どもは小さな動物を好きなのだと信じて疑わなかった。皆が皆そうであるように、当然、律子も好きなのだと。
「だって、気持ちが悪い」
自分を防衛する為に使う嘘も、言い訳の言葉すらもまだ知らなかった幼い律子は、自分の気持ちを伝えるのにただそれだけを何度も何度も繰り返し言った。今の律子なら、自分の性質を他人に伝えるのにもっといい言葉を見繕うことが出来たかもしれない。でも彼女はその時まだ7才になったばかりで、親や教師を疑うことすら知らなかったのだ。
律子と同じように教師として幼なかった担任は、律子が大人の気を引く為にワザとそんな風に振る舞うのだと決めつけ、次の日学校に両親を呼んで面談を行った。
「昨日律子ちゃんは、私の気を引くためにワザとウサギを放り投げてウサギをケガさせました。ウサギも生き物なのだと怒ると、口答えをしたんです」
担任は、いつもより厚い化粧をした顔に「生徒想いの教師」という、仮面のような表情を絶えずつくりながら律子の両親に向かってそう言った。
「まぁ、どうしてそんな事したの?アンタって子は何を考えてるか分からないわ」
信じていた両親の口から出たのはそんな言葉だった。母も父も、律子の話など聞いてはくれなかった。否、母の一言にショックを受けた律子に言葉など何も出てこなかった、と言う方が正しい。
「嫌な事思い出しちゃったなぁ」
水やり用に買った小さなジョウロに水道から出る水を注ぐ間、幼い頃の事を思い出す。
律子にとって幼い事の思い出は、苦痛でしかない。思春期を前にハッキリとした自我を持ち始めた頃、律子は全てを諦めた。
両親や教師や、大人に『自分』を理解してもらう事、そして、ありのままの『自分』で生きること。そして律子はいつからか『優等生』と言われるようになった。
「アタシは、完璧でなきゃいけない」
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