18542人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんた、意外と有名人だったのね」
美瑠が小さくコソッと俺に喋り掛ける。俺は、小さな溜め息を吐きながら、椅子を引いて腰を下ろす。
「陸上界の中での話だ。と言っても、まさかここまでとは、俺自身もびっくりだけど……」
「さぞかし、女の子にモテたんでしょうねー」
皮肉っぽく、いやーな声で眉間にシワを寄せる美瑠。一体何で不機嫌なのか、皆目見当も付かないや。
「それでは、蒼紀君。学園春祭りに向けての出し物を決めるわよ」
「分かりました」
――学園春祭り? 一体何だろう? そんな行事、他の学校では聞いた事もないな。
「紅、お前はこの行事知らんやろ?」
タイミング良く、美瑠とは逆に、もう片方の隣りに座っている翠が、小さく声を掠めて俺に聞いてくる。
「あぁ、何なんだ?」
「この学園の伝統行事の一つでな、緊張している新一年や、久しぶりの学校生活に休みボケしている新二、三年が勉学に切り替えれるようにする為の、言わば最後の息抜きってやつや」
「へえー」
俺に取っては、その両方に当てはまるんだけどな。でも、さすがは名門学園だと俺は思う。生徒の気持ちを考えて、こういう行事を作っているとは、感心するよ。
「紅、翠、そろそろ良いかな?」
いつの間にか、槇村先生と代わって教卓を前にして立っている蒼紀が、苦笑いをしながら俺達を指摘する。
やはりどこも一緒なのか、一斉にクラスのみんなが俺達の方へと顔を向ける。
「済まんなー、蒼紀。紅にちょっと説明しとったんや。話進めてもらっても構わんでー」
「そうか、分かったよ」
それにしても、学園春祭りとは、俗に言う文化祭と同じって事かな? 出し物とか言ってたし、何だか入学早々に学園生活を楽しめそうだな。
「まず、実行委員を二人決めたいと思うんだが――」
実行委員か。あまりそういう面倒な役割はやりたくないな。それに、クラスどころか学園の事すら何も知らない俺が、立候補するのもおかしな話だ。
「紅と美瑠の二人で異論はないね?」
――おかしな話だ。
「何でだぁぁぁぁ!? 一体何の流れでそうなったんだぁ!?」
「に……兄さん、こんなの異論ありまくりよ!」
「よし、異論はないね」
――な、なん……だと? 俺達のツッコミをスルー!?
最初のコメントを投稿しよう!