エピソード1

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 だがな、俺は中学、高校と陸上部だったんだ。種目は短距離で、一〇〇、二〇〇、四〇〇メートル走は、この地方なら近畿大会に行ける程のレベル。  逃げようと思えば簡単に逃げれる――が、彼女がいるなら話は全く変わってくる。 「うぅ……」  彼女が俺の右袖をギュッと掴みながら、怯えた表情をしていた。不覚にも可愛かった。仕方ない、俺も男だ。 「こっちです! お巡りさん!」 「なにぃ……!?」  当然の嘘を吐くと、バカなのか、不良は後ろを振り向く。その隙に、俺は女の子の手を握り、不良の横を走り抜き、その場から逃げだす。 「ちょっとペース速いけど、しんどくなったら直ぐ言えよ」 「う……うん!」  素直だな。さっきまで、ギャーギャーとうるさかった罵声女だったのに。  ところで、俺はどこを走っているんだ? 初めての町に、土地勘が皆無な俺はどこに向かっているんだ? 「ね、ねぇ! どこに向かって走ってるのよ!?」  俺が聞きたい。とりあえず、彼女を家に連れて行った後に親父と連絡するか。 「ひとまず君を家に送り届ける。道案内宜しく」 「――そうね、家に着けばこっちのもんよ! あんた、意外に頭良いわね!」  いや、この思考は普通じゃないのか? つか、意外って……まぁいいや。  俺は彼女の指示に従って走り、やがて目的地へと到着する。 「ここよ」  何じゃこりゃ!? 何、この塀の広さ!? 大体見積もって、二〇〇メートルぐらいはあるぞ!?  しかも、家もデカ! つか、どう見ても洋風のお屋敷じゃねぇか! この女の子、どこの国のお姫様だよ……  どうでもいいや。どうせ今日限りの出会いだろうし、一期一会とはよく言ったもの。さて、来た道を折り返すか。じゃないと、親父のとこまで帰れない。 「じゃあな」 「待って、あなたの名前は?」  唐突に引き止められ、名前を聞かれて少し驚いたが、質問に答える。 「水野紅だ。それじゃあ、急いでるんで。結構走ったから水分補給しとけよ」  俺はそう言い放ち、駆け足で道を引き返す。それにしても、不良のせいでテンパってて分からなかったが、結構身長高かったな。一六〇センチ前半ぐらいか。胸もそれなりに……おっと、親父と連絡せねば。
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