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ちっ、と思わず舌打ちをした。
俺は段ボールの家の前に立ち、縁のところをノックした。
「すみません。ボールをとっていただけますか」
返事はない。
「すみませ……」
もう一度言おうとしたとき、段ボールの家の中から男が出てきた。
「人が昼寝してるところ起こしやがって!何の用だ!」
俺に向かって怒鳴った男は、痩せていて、頭が禿げていた。
「すみません。ボールを取っていただけますか」
俺が言うと、男は黙って段ボールの家の中からボールを出した。
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
ボールを受け取り、立ち去ろうとしたときだった。
「ポジションはピッチャー。球種は直球、カーブ、スライダー。もっとも、変化球はほとんど変化しない。コントロールにも自信なし…図星だろ?」
男は俺の癖をすべて述べた。
言葉が出ない…
「驚いたか。無理もないだろうな。こんなオヤジに自分の投球を解説されたら誰でも驚くさ」
男はニヤリと笑い、段ボールの家に戻った。
俺はまた段ボールの縁をノックする。
「なんだ」
男が顔を出した。
「どうして俺の球種を見抜けた?なんで分かったんだ」
言ってから気付いた。敬語を忘れていることに。
「永塚高校の秀才君も敬語を忘れることがあるんだな。まぁいい。教えよう。汚いが、中に入れ。一応家だ。靴は脱いで角に置けよ」
俺は段ボールの家に初めて入った。
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