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「誰も雇っちゃくれねぇさ。肩壊して、野手転向に失敗して。コーチになれるやつなんざほんの一握りだ」
俺は生唾を飲んだ。
全員がスター選手にはなれない。
分かっていたことだが、改めて感じた。
しばらく続いた沈黙を、男が破った。
「お前の学校はどうなんだ。強いのか?」
俺は今日の大会のことも含めて説明した。
「となると、かなり悲惨な野球部だな」
男は言った。
「みんなやる気はあるんですけど…練習のやり方とかよく分からなくて。顧問はほとんど来ませんし…」
「おい」
男が急に言った。
「はい?」
「俺がコーチをやろう」
「は?」
「知識はある。肩が壊れてても、知識を伝えることくらいできる」
「ち、ちょっと待ってくださいよ。あなたが本当にプロ野球の選手だったか、まだわからないんですよ?なのに…いきなりは無理です」
男は少し困惑したが、すぐにもとの表情になった。
「3日、待ってやる。それまでに決めろ。3日後、ここにこい」
男はそう言うと、ごろんと横になり、数分後にはいびきをたてていた。
それにしても…どこのどいつだか知らないやつに野球を教えてもらうのは…
まずは情報を集めなければ。
俺は段ボールの家を出て、自転車で家路を急いだ。
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