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そんなやり取りで1時間ほど浪費したところで、車はついに県境を越えた。
「叔父さん、県外に親戚が?」
行ったこともなければ、聞いたこともない。
どこに行くのか不安だったが、叔父に不信感を悟られたくない火芽香は、遠出にはしゃぐ子供のような言い方をした。
「あー、火芽香は初めてだよな。まだかかるよ。寝てたらいいさ」
叔父は眠りやすいよう親切にエアコンを調整してくれる。
運転してる人を放って寝るなんて失礼でできない――という気持ちとは裏腹に、火芽香の瞼は重力に負けそうになっていた。
理由は決まってる。昨夜の“黙想”のせいだ。
燃えたぎる炎に向かい、延々と正座して手を合わせる禊ぎというやつを、継承式のためだからと一晩寝ないでやらされた。
優等生の火芽香は徹夜明けでも授業中寝るなんてことはしない。
つまり今は睡眠不足というか、睡眠皆無なのだ。
こうなってくると、まるで眠らせようとしているのではと疑いたくもなってくるが、今は睡魔と戦うことで精一杯だ。
だが、適度に揺れる車内は心地いい。
(でも……どこに行くか……見ておかなきゃ……)
健闘虚しく、そこからは意識が無くなってしまった。
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