“銅家”

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 到着した親戚の家が“赤地(あかつち)”ではなかったことで、火芽香の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。  ――苗字が違うということは、父方の親戚なのだろうか?  火芽香は母と死に別れてるだけではなく、父にも会ったことはない。どこの誰なのかも、生きているのかもわからない。 中学生の時にこっそり見た戸籍謄本では、火芽香は母の“私生児”となっていた。つまり、母は未婚のシングルマザーで、戸籍上にも父は存在しないということだ。  祖母や叔父などがいつも傍にいてくれたので寂しさを感じたことはなかったが、父への憧れはずっと抱いていた。  ――もしかしたら、父に会わせてもらえるのではないだろうか。  そんな筈ないと、頭は冷めている。  だが、今まで影すらもなかった父の消息。それの欠片でもあるのではと考えるだけで、心は勝手に踊りだす。  火芽香はもう一度表札を見上げた。  (あかがね)……父がいるかもしれない家。  急速に高鳴り始めた胸に手を当て、震える足を進めて、火芽香は『銅家(あかがねけ)の門』を―― 『運命の門』をくぐり抜けた。  
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