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銅家の中は広すぎて迷路のようだった。
入ってまだほんの1分だが、複数に交差している廊下を何度も曲がったので、もうすでに玄関がどこにあったかわからない。
更に何分間も長い廊下を歩き、いくつもの階段を上がったり下がったりして、やっと着いた部屋の襖を開けると――……誰もいなかった。
「叔父さん、みんな待ってるって?」
火芽香ががっかりしたような怒ったような表情で聞くと、叔父は急に苦悩の表情を浮かべて言いづらそうに答えた。
「火芽香……君は、今から行かないといけないところがあるんだ」
「どこですか?」
だいぶ不安を煽るような叔父の言葉だったが、火芽香は自分でも驚くほど冷静に聞き返していた。寝起きなせいなのか、あまりにも拍子抜けしたせいなのか。とにかく落ち着いている。
「僕にもわからない。でも、ずっと前から決まっていたことなんだ。姉さんも……君のお母さんも行ったところなんだ。おばあちゃんもだ。だから、心配ない。2人ともちゃんと帰ってきたし――」
何かに言い訳するように不自然なほど喋る叔父に、火芽香はなぜか苛立った。父に会えるという期待を裏切られたからかもしれない。
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