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「とにかく、その場所はどうやって行くんですか?」
つい強い口調で遮ってしまった。
そんな火芽香の態度に、叔父は一瞬驚いた表情を見せたがすぐに悲しそうな顔をした。
「この……更に奥の部屋へ行くんだ。そうすれば、連れていってくれるはずだ……」
叔父は部屋の奥を弱々しく指差した。そこには、一間ほどの襖がある。
「わかりました」
父に会えるわけではなかったと知って、少し自棄になっていたのかもしれない。
火芽香はスタスタと部屋に入ると、躊躇うこと無く奥の襖へ手を掛けた。
「ひめちゃん!」
唐突に、叔父が叫んだ。
そういえば、今日の叔父は火芽香をこう呼ばなかった。小さい頃からずっと“ひめちゃん”と呼ばれていたのに。
火芽香が静かに振り向くと、叔父は心配そうな顔をしている。いつもの軽薄そうな叔父には似合わない顔だ。
「気を付けて……絶対帰ってこいよ。兄さんも、母さんも、僕もみんな待ってるから。ひめちゃんの家族は、僕たちだけなんだから」
いつになく真剣な叔父を、火芽香は少し茶化したくなった。子供らしく振る舞おうとする癖が働いたのだ。
「心配 ないって言ったのは叔父さんですよ。私は英語も得意ですから、どこに行っても大丈夫です」
その言葉を聞くと、叔父は諦めたように頷き返した。
火芽香は叔父へ微笑みを見せると、再び襖へ向き合い、そしてそっと開けた。
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