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継承式を済ませた風歌は指輪を右手薬指にはめながらこちらに戻ってくる。
火芽香がぼんやりとその光る石を眺めていると。
「次は、赤地火芽香」
ふいに名前を呼ばれ、返事より先に立ち上がってしまった。
「あ……は、はい」
直立した体勢で遅れて返事をする火芽香を見て、剣一郎は少し厳しい顔をした。
「落ち着いて、ここへ来なさい」
逃げ出したい気持ちを見透かされたのか、「来なさい」と言う口調に力が入っているように感じられた。
火芽香が恐る恐る剣一郎の前に立つと、剣一郎は突然優しげに微笑んだ。
「火芽香。君は辛い体験をしているね。しかしこの継承式が終われば、あの事件の真相もわかるだろう。これからは、赤地家と君自身の未来のことを考えなさい」
この人は、あの事件の真相を知っているようだ。しかし何故知られているのだろうか──
「は、はい」
意味深なことを言われたのに、聞き返すのが怖くて 疑問を投げかけられなかった。
こういう時に妙に臆病風に吹かれて消極的になってしまうのは、火芽香自身も自覚している数少ない欠点だ。
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