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(どうしよう。本当に行かないといけないの?)
非行動的な火芽香は、ただグルグル考えるだけで何も言えず、何も出来ないでいた。
窓の無い古めかしい部屋の中は、一気に混乱で満たされる。
闇奈以外はみんな悲愴な顔で動揺していて、水青と風歌は泣いてしまっている。
その光景を見て覚悟が揺らいだのか、剣助は床に剣を突き立てた体勢のまま動かなかった。
その迷いに気付いた剣一郎は、剣助を睨み急かした。
「構うな。剣助、早く行きなさい」
しかし剣助は踏ん切りがつかない。
「剣助!」
父の怒号が飛ぶが、それでも剣助は躊躇している。
誰もがどうしたらいいか分からずに戸惑っていた、その時。
「おいババア」
ずっと静観していた闇奈が突然口を開いた。
その声に、合掌していた女性の1人が顔を上げる。闇奈の祖母のようだ。
「そこに行けば、全てがハッキリするんだよな?」
闇奈は祖母を真っ直ぐ見ている。
問われた祖母は、表情一つ変えずに静かにゆっくり頷いた。
「へぇ、そう」
ニヤリと笑みを浮かべた闇奈は、あれだけ嫌がっていた指輪をサッとはめると、つかつか歩いて剣助の正面に立った。
そして剣先を床に向けたまま固まっている剣助の手を包むように握ると、余裕綽々に笑んで見せた。
「じゃあ行こうぜ。けんすけ」
低い声でそう言った瞬間、闇奈は剣助の手を押し下げ、剣先を床に突き刺さした。
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