~第一部~  “運命の日”

4/5
前へ
/1503ページ
次へ
 あれは火芽香(ひめか)が小学校3年生だったある日、理科実験室でのことだ。  その日の授業は、海水を熱して蒸発させた場合どんな不純物が残るか調べる――といった実験内容だった。  アルコールランプで丸型フラスコに入った海水を蒸発させていた途中、火芽香がいた班のランプはアルコールが切れて消えてしまった。 「おい消えたぞ! あと少しなのに! 何やってんだよ赤地(あかつち)!」  同じ班だった短気で完璧主義、おまけに乱暴者の男子生徒が、火芽香を怒鳴りつける。そのアルコールランプは火芽香が準備したものだったのだ。 「ご、ごめんなさい。取り替えて来るから」  火芽香は慌てて走り、アルコールがたくさん入ったランプと交換し、また走って戻る。――が、あんまり慌てたのでテーブルの角に腰をぶつけて転んでしまった。  バシャッ――  手放してしまったランプは不幸にもその男子生徒の体に当たり、中身のアルコールは彼の服にぶちまけられた。  たったそれだけのことだが、短気で乱暴者だったその生徒は憤慨し、床に転んでいた火芽香の頭を思い切り踏みつけたのだ。  火芽香が激痛を感じた瞬間。 「ギャああぁああぁあ!!!!」  発狂的な悲鳴をあげ、その生徒は火だるまになって大きくのけぞり返った。  実験室は悲鳴で溢れ、先生もただ狼狽えるばかり。  男子生徒は炎に包まれた体を激しくしならせながら駆けずり回り、がむしゃらに助けを求めたが、誰もがパニックでどうしたらいいのかわからない。  他の生徒は、走る火だるまを避けてひたすら逃げるだけ。  火芽香も、その光景をただ呆然と見つめる事しか出来なかった。 「あぁ! アツイ! アツイ! アツイ!」  正気を失ったその生徒は、4階の窓から外へと身を投げた――
/1503ページ

最初のコメントを投稿しよう!

782人が本棚に入れています
本棚に追加