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あれは火芽香が小学校3年生だったある日、理科実験室でのことだ。
その日の授業は、海水を熱して蒸発させた場合どんな不純物が残るか調べる――といった実験内容だった。
アルコールランプで丸型フラスコに入った海水を蒸発させていた途中、火芽香がいた班のランプはアルコールが切れて消えてしまった。
「おい消えたぞ! あと少しなのに! 何やってんだよ赤地!」
同じ班だった短気で完璧主義、おまけに乱暴者の男子生徒が、火芽香を怒鳴りつける。そのアルコールランプは火芽香が準備したものだったのだ。
「ご、ごめんなさい。取り替えて来るから」
火芽香は慌てて走り、アルコールがたくさん入ったランプと交換し、また走って戻る。――が、あんまり慌てたのでテーブルの角に腰をぶつけて転んでしまった。
バシャッ――
手放してしまったランプは不幸にもその男子生徒の体に当たり、中身のアルコールは彼の服にぶちまけられた。
たったそれだけのことだが、短気で乱暴者だったその生徒は憤慨し、床に転んでいた火芽香の頭を思い切り踏みつけたのだ。
火芽香が激痛を感じた瞬間。
「ギャああぁああぁあ!!!!」
発狂的な悲鳴をあげ、その生徒は火だるまになって大きくのけぞり返った。
実験室は悲鳴で溢れ、先生もただ狼狽えるばかり。
男子生徒は炎に包まれた体を激しくしならせながら駆けずり回り、がむしゃらに助けを求めたが、誰もがパニックでどうしたらいいのかわからない。
他の生徒は、走る火だるまを避けてひたすら逃げるだけ。
火芽香も、その光景をただ呆然と見つめる事しか出来なかった。
「あぁ! アツイ! アツイ! アツイ!」
正気を失ったその生徒は、4階の窓から外へと身を投げた――
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