782人が本棚に入れています
本棚に追加
一日の授業を終え、帰り支度をしている火芽香のもとに、京子が駆け寄ってきた。
「ひめ~誕生日おめでと。なんかおごるよ~」
京子は今まで必ず火芽香の誕生日を祝ってくれていた大親友だ。しかし、今日は例年通りというわけにはいかない。
「あ……ごめんね。今日は家でお祝いしないといけないの。親戚も来るから」
火芽香が残念そうに断ると、京子は丸い大きな目を更にくりっと丸くさせた。
「え? 親戚が誕生日祝いに来るの?」
京子には何でも話してきたが、赤地家の伝統については話したことはない。何となく自分の家が異色であることは火芽香自身も自覚があったからだ。
「うん。ごめんね」
今日は継承式があるの――とはさすがに言えず、火芽香は曖昧に微笑んだ。
京子は不思議そうにふーんと唸ったが、すぐにパッと笑った。
「じゃあ、明日やろ! プレゼント用意したんだけどさ~ある場所じゃないと渡せないんだ」
「え? なあに?」
場所まで選ぶなんて、どんなプレゼントなのだろう。火芽香はワクワクした。
京子の仕掛けるサプライズはいつも火芽香の予想を上回るもので、その度に驚きと喜びをくれる。
期待に胸が踊り、火芽香の頭の中からは『継承式』という憂鬱な単語は一時追い出された。
「明日まで内緒。じゃあ帰ろ!」
京子はそのベリーショートの髪型に見合い、サバサバした性格だ。そういう自分には無い良さを持っているところが、火芽香は大好きだった。
最初のコメントを投稿しよう!