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でもなんだって胸が痛むの?
意味がわからない。
「あら?ユリ、指輪は?」
「あたし、指輪とかアクセサリー嫌いだから」
「んもう。せっかく工藤さんがくれたのに?」
「だって……邪魔なんだもん」
「ねぇあんた、智弘以外とはもう今は会ってないんでしょ?」
「うん。智弘以外は、結婚するって言ったら引いたのが二人、怒り狂ったのが一人」
「その怒り狂ってユリを殴りつけたやつは、工藤さんがやっつけちゃったのよねぇ。いい男だわぁ。強くて優しくて金も稼いで愛してくれるなんて最高の男じゃない?」
「そうだね。毎日どんなに遅くなってもセックスするし」
「絶倫?」
「そうね」
「きゃあ御馳走様。まったくユリの罰あたりめ」
「彼はそれでいいっていうから」
ママはふと悲しそうな顔をした。
火をつけていない煙草で唇をとんとんと叩いている。
「ねぇユリ?」と言いかけて唇を舐めた。
ずるずるとパスタを啜りながら私は「んん?」と聞き返したけど、ママはふっと微苦笑を浮かべて首を振っただけだった。
「……何よ?」
「ううん。いいわ。それはいいの」
変なママ。でも、いいならいいや。
どうしても聞かなきゃならないこと、なんてどうせこの世にはない。
知ってたって知らなくたって、
起きることは起きるし、避けられないことは避けられない。
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