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女の子は言葉のとおりに翌日も、その翌日も、その翌々日も、同じ場所に同じように小さな袋を並べていた。
陸は毎日一袋ずつ、女の子からくもの巣キャンディーを買う。お世辞ではなく本当においしかったのだ。
女の子はくもの巣キャンディーの入った袋をお客さんに渡す時、それが初めてのお客さんでも陸のようなお得意さんでも、必ずこう言った。
くもが巣をはるように、私はキャンディーを売るの。
ある人は陸のように、ふうんと無関心に相づちを打った。
またある人は不思議そうに、それはどういう意味ですかとたずねた。
またある人は神経質そうに、わけのわからんことを言うなと怒り出した。
飴売りの女の子はそのどれにも答えない。
くもの巣キャンディーを渡してしまったら、あとはうつむいてじっとしている。
おいしいよ、とか、また来るね、などと言えば、女の子はうつむいたままにありがとう、とか、待ってます、などと返した。
陸はいつも買ったくもの巣キャンディーを女の子の隣で食べた。
一個だけ食べて立ち去る時もあったし袋の中にある飴をすべて食べてもまだ女の子の隣に居座ることもあった。
陸はうつむく女の子の隣で、行きかう人々を眺める。
人々の中には時々、足を止めてくもの巣キャンディーを買ったり、ただ冷やかして行ったりする人もいた。けれどほとんどは女の子のことも、折りたたみ机に並ぶくもの巣キャンディーのことにも気がつかないようで、迷いなく歩いていく。
飴売りの女の子はくもの巣キャンディーを買ったすべての人に必ず言った。
くもが巣をはるように、私はキャンディーを売るの。
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