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雨の多い時期になっても、女の子は毎日同じ場所にいた。
大きな傘で雨から商品を守り、女の子の方は、傘は差さずに合羽を着ている。
陸は相変わらず毎日くもの巣キャンディーを買い、飴売りの女の子の隣で飴を食べながら道行く人々を眺めた。
雨降りの日や今にも雨が降ってしまいそうな日は、行きかう人の量がぐっと減り歩調が速くなる。
陸は甘くてなつかしい味のするくもの巣キャンディーを含みながら、飴売りの女の子に話しかけた。
「よくやるね。こう雨が降ってちゃ、そんなに売れないんじゃないの?」
毎日やって来るお客さんがいるから。
ぼそりと、女の子は隣にいる陸にだけ聞こえるような小さな声で言う。
「おいしいからね、これ」 ふいに足早だった歩調がゆるんで、立ち止った。通りがかりの人は、折りたたみ机の上にある最後の袋を手に取る。
女の子は代金を受け取って、呟くように言った。
くもが巣をはるように、私はキャンディーを売るの。
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