第1章

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妻が亡くなってからもう一年になる。 手料理を食べて健康的に太りつつあった身体はガリガリに逆もどりし、住んでいたマンションはひとりで住むのには広すぎたから解約した。 ひとりで食べる食事はおいしくない。 ひとりで見るテレビはおもしろくない。 ひとりで過ごす家はすごく寂しかった。 生きているのか死んでいるのかわからなくなる。 妻が死んでからのことが全て夢なんじゃないかと思うこともある。 けれどその度に瞼の裏に冷たくなった妻の亡骸が浮かんできて、あぁ現実なんだなと思い知らされる。 友人には精神科の受診を勧められた。 僕自身もその必要性を感じているが、拒否している。 楽になるということは妻のことを忘れるのと同義ではないだろうか。 そう考えると怖い。 心が痛むうちは忘れることはないのだろう。 だから傷を癒すことはしたくない。 痛みごと妻のことを覚えていたい。 なにひとつも忘れたくなかった。
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