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「畜生!」
東野は近くにあったゴミ箱を蹴飛ばしていた。理解の範疇をとうに超えてしまった出来事を前に、苛立ちを隠せない様子だ。
目には涙が滲み、目元が赤らんでいる。それ程悔しいのだろう、それ程悲しいのだろう。僕はそれに触発されるようにして、耐え切れず、泣いた。
うおう、うおう、うおうと、只管、泣き、叫び続けた。涙が枯れる程泣き、もう出なくなったところで、ようやく感情が感情として成り立ってくる。
どうして僕は、動けなかった。東野が懸命にいだきを救おうとしていたあの時、動けなかった。
どうして誰よりも親しく、誰よりも接した日々が長い僕が、何も出来なかった。
どうして東野があれだけ必死になっている様を見ても尚、体を、脳を順応させられなかった。
どうして僕はこんなに弱いんだ、護るべき者さえ護れないんだ。失ってようやく気づいた。いだきは、友達でもない、恋人でもない、護りたい者だったんだ。
なのに、どうして僕は、こんなに弱い、こんなに無力、こんなに大馬鹿野郎なんだ。
どうしてあの時、手を出さなかった、飛び込まなかった。後悔なんて、後から引っ張られて来るものなのに。
弱いのは嫌だ、無力なのは嫌だ。失った後だけれど、何も失いたくない、護りたい。
僕はもっと……。
強くなりたい!
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