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「え?」
と、儚さんは、口から零すように、そう言った。後ろから、ひゅるりと生温い風が、僕の心を透かすように、吹いていった。
僕の額に滲んでいた汗が一滴、頬を伝った。暑いわけじゃない。どちらかというと、冷めた、挙動不審な、そんな、冷や汗だ。
「本当にそれは、黒渦だったの?」
儚さんは、問い正すように、言った。東野が間髪入れず「間違いない」と言い切る。
「そう」
と、儚さん。珍しく、その顔には見透かしたような態が見られなかった。
大分、心が落ち着きを取り戻したところで、僕は儚さんの方に視線を移す。
儚さんも、それに気づいたらしく、僕の方を向いた。不意に視線が合って、少しどぎまぎしてしまった。
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