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 儚さんは、ビッ! と、人差し指だけ上げた手を、僕の前に突き出す。 「いだきちゃんを呑み込んだ黒渦の正体。それは異象で間違いないと思うわ。でも、だからこそ厄介と言える」 「どういうことですか?」 「基本的に異象っていうのは、巡りあうものだから、その関係に優劣は存在しないはずなの。でも、今回のケース、いだきちゃんは黒渦に呑・み・込・ま・れ・た、と、貴方は確かにそう言ったわよね」 「そ、そうですけど」  僕がそう言うと、儚さんはグイッと顔を寄せてきた。いや、近い、近いよ。その距離からガン見しないで。 「呑み込まれたということは、優勢的に、強制的に、異象がいだきちゃんを自分の領域、テリトリーに引きずり込んだことになるわ。でもそれって、お互いが相互関係にある状況下においては、明らかに可笑しくない?」 「確かに」  言われれば、ごもっともだ。
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