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儚さんは、切れていた呼吸を、このタイミングで行い、大きく息を吸うと、今度は大きく息を吐いた。体内に酸素を循環させきったところで、話を続ける。
「最後に考えられるのが、第三者が意図して異象世界を発生させ、意図していだきちゃんを、異象世界の中へ引きずり込んだ。ということ」
「第三者が、ですか」
「そう、確かにこれが三つの中で一番、理にかなっているけど、その反面、これが三つの中で一番、起こるにあたって、難易度が高いわ」
「どうしてですか?」
僕が言うと、儚さんは、呆れたように、素っ頓狂に、言った。
「どうしてって貴方、それをしようと思ったら、貴方にも、東野くんにも、いだきちゃんにも気づかれないように、接近しないといけないのよ? 異象世界って言ったって、そんな数十メートル先に、意図して発生させれるもんじゃなし」
「あ、なるほど」
そりゃそうだ。
「でも、もしこのケースで、いだきちゃんが黒渦に呑み込まれたのだとしたら、話は厄介の中の、更に厄介になるわね。だって、相手は異象世界を自在に発生させられる程、異象に長けた人間、ということになるんだから」
僕は思わず唾を飲んだ。
いだき消失の真相に一歩、いや、何歩も近づいた気がする。でも、近づけば近づく程、救出が嫌に複雑で難解かを思い知らされる。
僕は折れそうな心を、棒切れ同然の二本足で、がっちりと支えた。親から授かったこの、二本足で。
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