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そうじゃないか。
それは余りに至極当然で、先刻僕が、異象を失うことを決意した時、考えていたことだった。
そう。
もう、忘れていたのだ。
人の記憶なんて曖昧で、とんでもないものだ。つい先刻、決意していたことさえ、忘れ、揺らいでしまう。
いや、それは違うか。
何故、揺らいだか。それは、単に僕の意思が、グラグラと、歯肉炎に侵された、歯茎のように、脆いものだったからだ。
だからこそ、もう、迷わない。
後ろに仰け反って、目の前の手掛かりを残そうとするぐらいなら、前に突っ込んで、手掛かりを失ったほうが、百倍マシだ。
だって、その先に何か新たな手掛かりが、光があるかも知れないじゃないか。
無かったとしても、まだ挑戦することは出来るじゃないか、手掛かりを追い求めることだって出来るじゃないか。
迷うのはもう止めた。
臆すのはもう止めた。
風は今もまだ、吹いている。
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