《 第5章 》 紫陽花の咲く頃

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「藤、もっと脇を締めろ」    初夏を告げる様に高い空が青々としている中、日新館の道場からは、土方の怒鳴り声が響いていた。    帰蝶が会津の地を踏んだあの日から、何も手掛りが掴めないまま、時だけが悪戯に過ぎ去って行くばかりだったが、帰蝶自身は内心安堵してもいた。    土方は、時々こうして日新館に足を運んでは、生徒達に剣の稽古や戦での知識を教えている。  帰蝶は道場の縁側に、ちょこんと腰を下ろしながら、そんな土方の姿を眺めていた。   「お蝶さん、今日もいらしてたんですか?」    道場を、ずっと眺めていた帰蝶が、その声の主に振り向くと細く切れの長い目を更に細くさせ、スッと通った鼻筋を軽く指で掻きながら、清らかな笑顔で話しかけて来たのは、白虎隊の中でも剣術に優れ9歳の頃には大演舞大会で、その才を認められた織之助だった。    
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