梅だとか、舟だとか。

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斎藤の足は、昼前の、人通りも賑やかで、人の声も夏場の蝉のようによく聞こえる七条通りへと向かっていた。 通りかかった店が表に向けてだしていた紅を一瞥だけ、特に寄り道もせずに目的地へと足を進めていく。 そこに近づくと、濃紺の着流し姿の男が一人、片手を上げて斎藤の到着を歓迎しているのが見えた。 「おーい、一!」 「待たせただろう、すまない、吉田さんとの話が少し長引いてしまった 食事代はこちらがもつから勘弁してくれ」 「いいさ、いいさ、常ちゃんと話してたからそんなに退屈してたわけじゃなかったから まぁ食事代は有り難くもってもらうけど ところで、誰もついてきてない?」 「あぁ」 その言葉に合わせきょろきょろと辺りを見回す斎藤の視線から、隠れる人影おおよそ四つ。 「あっあれ…嘉一じゃないの」 「お、本当だ 着流しも随分着こなすね」 「ちょっと、二人とも止めましょうよ…… 一君がまた般若のごとく怒りますよ、今は土方さんもいないんですからね」 斎藤一という男は恐ろしい。 以前永倉が斎藤の馴染みの芸子に変なちょっかいを出した際はまだ大目玉は免れたが、二人が斎藤の飯を摘んだ時など、たまたま出先から帰ってきた土方が土産の食料で仲裁してくれなければ、大惨事は免れなかっただろう。 ただただ部屋の空気を重く冷たくする威圧感を醸し出して、すっと刀を抜こうとするから余計たちが悪いのだ。 左之と永倉、沖田、それと下手な事をしないよう監視役で付いてきた山南が四段団子のように脇道から頭を突き出す様を、通を歩く町民らが物見高い様子で好奇の視線を向けていく。 さて、こちらはそんな覗き見されているなんて事に気づかない茶屋の二人。 「ところで、話って何? 態々一のために稽古行かないで来てるんだから、しょうもない話だったら流石の俺も怒るかも」    
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