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「それがだな、土方さんについてなんだが」
「ごふっ」
大方、仕事をしてみた感触はどうだ、とか、皆とは打ち解けられそうか、とか、そんな話だろうと踏んでいた泉にとって、斎藤の口から飛び出したその名前には動揺を隠せなかった。
口に含み転がしていた緑茶を思わず噴き出しそうになり、慌てて喉に下し湯のみを椅子に置いて、袂から懐紙を取り出し押さえるように口元を拭う。
そして小さく咳払った。
「んん…あー…
残念だけど俺は色恋沙汰については…」
「斬るぞ」
「……で、土方さんがどうかなすったか」
「何だ、知り合いだと思ったんだが……私の見当違いか」
「いや、むしろどうして俺があの人と知り合いだと思ったのか聞きたいんだが……」
「以前、お前を辻斬りから助けた際に歳、と呟いたのを聞いた覚えがある」
「……あ、言ったかもしれない
ほら、お前もあの人も総髪だろう
その上あの日は丁度月で一の顔が見えなかった、だから見間違えたんだよ」
「そうか、では嘉一と土方さんは知り合いということでいいのか」
「うんうん、知り合い
歳ってば、屋敷に引きこもってた俺のことを女だと思って遊びに来たんだから、笑い話だよな」
「あの人らしい」
ふ、と本の少しだけ口角を上げて、茶を淹れた湯飲みを唇へと運ぶ。
一口だけ呑み込んで、また言葉を繋げた。
「今朝、あの人がお前のことを尋ねてきたよ
試験の帳簿を見てこれはと思ったらしい」
「で、一はなんて答えたの」
「今私用で大坂のほうへ行っていると言っておいた」
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