梅だとか、舟だとか。

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「…嘉一……、嘉一、といえば、以前土方君が話していた深川の青年では?」 「あっ」 京の街に突如現れた人間団子、そのてっぺんの山南が、ぽつり、とそう口にした途端、沖田が思い出したように手を叩き合わせる。 「そうそう、何処かで聞いた気がしたと思ってたんだ…ほら、左之さんが土方さんのお気に入りの芸者云々…」 「あっあの剣の弟子って話の! 成る程ねぇ、それであんな開始早々に突然小手にくるようないやらしい剣な訳か、納得」 「何だ、確かに優男じゃあるが…土方さんの言う通り男じゃないか… あの人があれほど何処かに通うだなんて、余程のいい女だと思ってたんだが」 「君たち、あまり土方君をからかうものじゃないよ…彼がかわいそうだろう いくら性格が品曲がっていても、そんな鉛のような心じゃないんだからね」 悪気のない、むしろ三人を宥め土方を庇うつもりで発せられる言葉に、悪気存分の発言をした三人は小鹿のように体を震わせ必死に笑いをこらえている。 いや、本当に山南に悪気はない。 あるのは、あくまで友人に対する好意なのだ。 「…ん?ね、皆…あれ…」 沖田が、必死に笑いをこらえる中ちらりと茶屋へと視線を向ける。 それにつられるようにそちらを見た三人は、思わずあ、と唇から漏らしそうになる。 内輪で土方の事で盛り上がっていた間に、向こうの二人の傍らには美しい女が一人、立っていたのだ。 上で永倉が感嘆の言葉を零しているのを聞きながら、沖田の視線は、不躾だとは思いつつもその女の手元に向いていた。 (あれは…なんだろう?女性の手持ち荷物にしては大きいな…)  
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