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「女好きの土方さんは、身近な人の女装を見破れなかったことが悔しいんですよ
……あ、そうそう、嘉一君、隊士として入隊されたら如何です、彼、土方さんの弟子だし
後々の事を考えると、変装ができる人員、有りだと思うんですけれど」
井上の言葉を遮ったその言葉に、近藤が二度頷く。
山南も副長としての立場から沖田の意見に賛成の言葉を向けるが、土方はいまいち良い顔をしない。それに対して不思議そうに、近藤が首を傾げる。
「一体どうしたんだ、歳、お前の弟子じゃないか、近くに置いておいたほうがいいだろう?
変装技術が情報収集に役立つと言ったのもお前だろうに」
「いや、まぁ……そうなんだけどよ……」
袖の中で腕を組み、どうにも決心が付かないようで渋る様子を見せる土方に、原田がこれぞと思いついたように言う。
「あ……戦になった時のこいつの腕が心配なんだろ」
「……」
沈黙したままだったが、否定しない様子からは肯定しているのだろう。
自らの剣の師匠がそういう格好を見せることに、むっと顔をしかめはしたが、己の剣の腕が未熟なのは弁解の仕様がない事実。れど、この腕は防具さえつけなければ決して酷いものではない、何と言ったって、前世の技を体が覚えている上、あの土方歳三から教えを受けた剣なのだ。
すると原田がどんと胸を叩く。
「こいつの剣の腕なら俺らがある程度の保障はするよ?
そりゃあ、土方さんとか新八と試合をしたらまだまだ未熟だろうけど、こいつは一介の浪士なんぞにゃ負けねぇさ
最低でも、身を護る技にゃ長けてる、ぽっくり死にはしないだろうよ」
土方がそちらに視線を向けると、原田と沖田、永倉、斎藤の四対の目が各々違った物を含んでじっとこちらを見ているではないか。
永倉、沖田、斎藤といえば、後々、「一に永倉、二に沖田、三に斎藤」とまで言われる男達だし、原田の腕も槍を持たせればまごうことない本物。
その四人に推されている人物を、私情混じりに拒否をする訳にもいかない。渋々といった感じではあったが、一つため息のあと一瞥し、しっかりと頷いて見せた。
「後々人員が整ってからになるだろうが、調役の役職を取り付けよう
その時はその役職筆頭を嘉一さん、あんたに頼む」
「! はい、この舟山嘉一、皆様のご期待に沿られえるよう……」
「待て待て嘉一君、そんな畏まるような仲じゃないだろう?」
「え?えっと……
はい!任されました!」
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