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暦を読めば、卯月であった。
旧暦ではもう夏に入る、四月中旬頃のとある日の事。
「……なぁに、歳、その羽織」
「誰です、それ考えたの……」
京都八木別邸に構えられた一室では、壬生浪士組近藤一派に位置する一同が、とある妙竹林な羽織を前に座っていた。
羽織の横には、土方が酷く自信に溢れた様子で腕を組み、仁王立ちなんてしている。
「俺ら壬生浪士組の隊服だよ
まぁ常のように資金調達してきたのは主に芹沢さんらだが、この模様を考案したのは俺!
…………何だよ、沖田はともかく嘉一さんまでさ……
二人とも随分嫌そうな顔してるが、もしかして何かしら文句でも……」
「よりによって浅葱色って……壬生を意識したのか、切腹を意識したのか、安かったのか なんなんだい
訳分からん」
「その端っこの山形
赤穂浪士を参考にでもしたんじゃないでしょうね
明らかに土方さんの趣味でしょそれ…」
「しかも浅葱色なんて会津藩の最下級藩士の色じゃないか」
「僕その羽織いらないんで僕の分嘉一君にあげてください」
「いや、俺もいらないから俺と総司の分は一にあげてください」
「いらん」
「……土方さんには悪いですけど、正直微妙ぉー……ですね」
「うん、微妙ぉー…」
弟分が二人して何とも言いがたい表情でその羽織を見つめている様子を見て、土方はがりがりと頭を掻き、ちらりと流し目で沖田を見やる。
「赤穂浪士は、近藤さんも随分お気に入りなんだがなぁ」
「とても素晴らしいと思いますその羽織!」
「おま…」
「嘉一さんもさ
そのうちゆっくり話すがね、この浅葱色には俺の理想がな、なんかほら、山ほど詰まってるんだよ
な? 何とか譲歩して着てくれやしないか」
「い、いや……別に絶対嫌ってわけじゃないし
あんたがそこまで言うならそれほどの物なんだろ、それを俺が譲らない訳ないじゃないか……」
土方にそこまで言われてしまったらもうどうしようもないのだ。
困ったように嘉一は笑った。
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