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本来なら武士らしく長着に袴、という格好がかっこいいのだけど、その上に作業用の作務衣風割烹着を着るとするなら袴でないほうが見た目として似合う物。
藤色の着物を黒い帯で締め、沖田らが使い古し譲るのも本当にこれでいいのかと再確認するほどの着物を継ぎ合わせ作り直した、芭蕉色を基調にし布で縫った割烹着を着て作業がある時たすき掛けをする。
嘉一は、そんな風の格好でだいたい過ごしていた。
「粥を炊いてきたけど、食べれる?」
「今は何も口に入れたくないなぁ……」
「ん」
とりあえず上半身だけ起こさせて、飯を食う気も起きない奴の髪を緩く横に結ってやりながら、困ったように一つため息を吐き出す。
この男の体調が悪いだなんて、雪や槍どころではない、大砲が降ってくるのではないか。
「なに、寝不足か?疲れが一気に出た?
熱は……微熱程度、か
な、仕事忙しい?」
首の裏に手を当て問うと、土方らしくもない気の抜けた声が返ってくる。
「…嘉一さん、前みたいに髷結わないのか」
「……ん? あぁ、結ってもいいんだけど、中途半端な長さにしちゃって……」
検討違いな回答にも素直に答えて、結紐と飾りの紐で纏めた髪に手を伸ばす。
「あんたも髪伸ばしたらいい」
「嫌だ、似合わない」
そんな風に笑いながら、帯に挟んでいた手ぬぐいで軽く寝汗を拭ってやる。汗をかいたままでは熱が増長してしまうし、前は八と一緒にこちらを看病してもらったのだから、礼というか、そんなものだ。
前だったら移ってしまうから看病なんてしてやれなかったろう。
「まぁ、季節の変わり目は風邪をひきやすいっていうからなぁ……」
「風邪じゃあないよ……」
「端から端、何処からどう見ても風邪じゃないか、強がるなよ」
「……」
「お粥食べて、汗かいて、寝て、終わり
すぐ治るさ」
そう言って微笑む嘉一を見て、土方は何処か懐かしむような目でふと微笑む。
「嘉一さん、なんだかしっかり者になった、変わったな
……な、勇さんたちは」
「?親父のようなこと言うね、歳は…
もう皆朝餉が終わった頃じゃないか?
今日の当番は平助だったかな」
彼の飯は不味い。
おかずは至って普通なのに、飯炊きがどうにも下手なのだ。当番が藤堂だと知っても別に笑って落胆する様子も見せないから、どうやら話の繋ぎに適当に上げた話だったらしい。
「そうか…………今、暇か?」
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