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「浅葱色ってのは、武士の色なんだ」
唐突に、土方がそんな話を口に出す。
「正直に言えば、嘉一さんの言う通り浅葱色が安上がりってのもあるさ
けどそんなこたぁ二の次だ
武士が切腹する時に着る浅葱の着物
そりゃあ切腹の色なんて縁起悪いよなぁ、分かってる
だからこそ、だ
この羽織を着る俺らは、いつだって死ぬつもりで…大事なものの為に命を張る覚悟がある
そういうのを示してぇ
命をかけて、俺らは武士の道を探して……
…………その命をかけて見つけた道を、俺らはきっと、歩いていくんだぜ」
土方がにやりと、自信ありげに笑って見せる。
それにつられて、嘉一もくすりと笑みを漏らした。
何となく、この口の達者な男が、精一杯信念とでもいうような、自分に対して伝え言いたいことはわかった気がした。
「なぁ嘉一さん、この先を知ってるだろうあんたに誓うよ
……俺らは、武士の道を見つけられる、絶対に、見つけて見せる」
「それなら俺はあんたの道を、あんたと一緒にその道を
一寸も違わず辿っていってあげる
だから、あんたは道を間違えちゃいけないよ」
そう言ったところ、ふと、先ほどの土方の決意に、嘉一はおかしな違和感を覚える。
「……歳?
何か話を腰を折るようで悪いんだけど……先を知ってる?
何の話?」
「は?」
「………………俺は未来人じゃあないじゃないか、この先を知ってるわけない」
「は?
だって嘉一さん…会ったばかりの頃に、未来だなんだ……」
「……歳、疲れてる?」
驚き慌てて嘉一に事を伝えようとする土方に、その人は首を傾げながら本気で困ったような視線を向ける。
土方はもとから熱で赤い顔を更に赤くして、
「なっ……!違っ、」
「はいはい、多分熱で浮かされてるの
ほら寝ろ、早く寝ろー」
両肩を押さえ、ぐぐぐいーっと、抵抗する土方をものともせず褥へと押し付ける。
嘉一ごときの腕力に自分の抵抗も意味をなさずただされるがままに寝かされたことに対して、これがまた嫌そうに顔を歪めながら、土方はため息を吐いた。
どうやら、自分の体は自分が頭で考えているより随分疲れているらしい。
視界の端の、出来立てだと湯気を立てる、何の味もないだろうに、酷く旨そうな粥を食べる気力もない事に、再びため息を溢す。
…こちらのため息のが重い。
それに笑い、布団をかけてやりながらからかうように
「……子守唄でも歌って…」
「結構っ」
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