鉄扇の人と浅葱の夢。

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  (耳真っ赤……) ぱたん、と障子を閉めて横を見てみれば、 「僕が餓鬼の頃からの長い付き合いだけど、あの人があそこまで語る姿、初めて見たよ」 「総司」 壁に寄りかかって此方にふんわり微笑みかけている沖田を見て、嘉一は不愉快そうに、苦虫を噛み潰したような顔をする。 「何だ、聞き耳たててたの 随分といやらしいことするんだな、お前」 「あ、もう、そんな刺々しいこと言わないで! 君に会わせたい人がいるから待ってたんだ……今まで顔合わせするに出来なくてね、漸く都合があったから紹介しようと思って」 「それって、前言ってた他の隊士のこと?」 「うん、そう、まだ顔合わせてないでしょう?」 「多分、まだ」 「じゃあ、まずはその甚平もどきを脱いでいただきたい」 「……………………」 服装を整えて草履を引っ掛け、八木邸を出て向かいの前川邸へと足を運ぶ。門を潜って奥まで進むと、沖田がひょいといつもの少し高めの声を屋敷内に向けて飛ばした。 「沖田ですけど!! 舟山君連れてきましたよ!!いいですか!?」 すると、途端前川邸の中からばったばったと熊が廊下を歩くような随分と豪快な足音が響いてきて、それからまた、戸を壊しかねないような音と共に盛大に戸が開かれる。 「うん、来たか沖田君、待っていたぞ」 「はぁ、お待たせしましたか、すみません」 戸からぬっとでてきた男に、嘉一は思わず驚愕に顔を引き攣らせた。 五尺九寸(179㎝)はあるだろうがっちりとした巨体に厳つい顔。 特別低いわけではない嘉一は兎にも角にも、五尺五寸程度でなかなか高いほうである沖田もが見上げることになる長身の男の登場に少々腰が引けるが、何とかしっかり踏みとどまる。 (あの土方さんの友達の癖にびびりだなぁ、この子は) 失礼な事を考えながらも、沖田は、片手を開き皿にし、芹沢へと向ける。 「嘉一君、こちら、芹沢鴨局長 で、こっちが以前話した舟山嘉一君」  
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