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「ちょっと嘉一君、あまり下手打たないでね
……
特に、芹沢さんの機嫌を損ねるようなこととか」
「ほんと失礼なことを抜かすなあんたは…
何、大丈夫だよ、仮にも良いとこ庄屋の息子だもの……人当たりのいい態度をとるくらいはできるって
…………でも、話に聞いていたよりもいい人そうじゃないか」
にこりと笑い、芹沢が消えていった障子に視線を向けながら嘉一はそう言葉を続ける。それを見て、沖田は一度肩を竦めて茶を啜る。酷く渋い。芹沢は、どうやら茶の才能はないらしい。
「まぁ、芹沢鴨……まあこれ偽名らしいんだけど、あの人といえば、水戸の尊皇攘夷志士としてかなりの有名所だしね
やはりそれなりに威厳も統率力あるし、名も売れてるんだ」
たかが浪士組の居残り組が会津藩のお預かりになれたのは、芹沢鴨の名の影響があったろう。
「ただほんと、酒にさえ強ければなぁ……」
ほとほと困ったように、沖田がため息と共にその言葉を吐き出した。
「酒ぇ?」
「ちょっと……っていうかかなり悪酔いしやすい人でね……乱暴狼藉の癖が……
まぁ、どれもこれを引っくるめても、一番素晴らしいのは近藤さんなんだけどね!」
「………………」
きらきら爛々と輝く瞳で、沖田はどこか明後日の方向を見つめている。
剣の師匠を憧れるのはむしろいいことだが、彼の場合何だか崇拝的な何かが含まれている気がしてならない。その沖田の様子を半目でぼんやり眺め、嘉一はふと、思う。
(いかん、こいつ早くどうにかしないと……)
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