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沖田が上手くやり過ごすことを期待していた嘉一は、話を振られこれがまた参ってしまった。
問題は断ってどんな反応が返るってくるか……だ。
が、新見らとはすでに一悶着あるし、今度はこの前川邸でまたも火種を打つことになっては洒落にならぬ。
それに試衛館の一門とは、入隊以前から友人である藤堂と土方の計らいもあって、もう同門生であるからのような仲。
沖田にちらりと視線をやるとぱちりと目が合う。
彼だったら、自身となかなか仲も良く、近藤とも親しい嘉一を近藤の為にも手放すことはしない……筈だ。
「あぁ……ごめんなさい、折角のお話でとても嬉しいのですが……
自分にはどうにも放っておけないガキ大将が…あと、料理も教えてやらなきゃいけない奴がいるので」
困ったように微笑みながら、嘉一は芹沢を見上げる。
「あ、でも時々こちらに寄らせてくださいね
確か局長は医学の知識があると……教えていただきたいと思っていて」
「……いつでも来なさい
ついでに医学だけじゃなくて剣術も教えてやる」
それは正直なところ少し遠慮したかったが、他の者よりも確実に経験が少ない嘉一にとっては不利益な事ではない。
むしろ、一つの流派に固執しない身として、神道無念流の流れを少し汲む事が己の向上に繋がる事があるかもしれない。
「ありがとうございます、芹沢局長」
「おう
おっと、そういや土方の奴が言っていたが、舟山君が後々監察の仕事担当するんだって?」
「は?……あぁ、はい
それに関しては、こちらで勝手に決めてしまって申し訳ありませんでした」
芹沢が同席でない場所で決めた話、何かしら文句を言われるのではと身構えた。
が、続く芹沢の言葉はなんだか拍子抜けで、
「その役職に関しちゃ、副長直轄を置きてぇってんで前々から話しちゃあいたんだが、向こうにもこっちにもなかなか相応しい輩がいねぇって参ってたところでな
斎藤はいけねぇって聞かねぇしよ」
局長に芹沢、新見、近藤、と芹沢派を多く置いたのに対して、副長は土方と山南、近藤派が占めている。
ならば、芹沢としては副長直轄で話が進んでいる監察の頭には自分の人間を入れたかっただろう。
けれどどうやらこの男、特に目立った文句はないらしい。
鉄扇を嘉一の胸にとん、と当てて
「君なら任せられる、俺からもよろしく頼んだぜ」
にこりと笑う男に、本当に皆が言うような男なのか、と…密かな疑問が浮かんで消えた。
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