阪の絹糸はお幾らでっか。

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「もうお前ら縛っちまうぞ!!!」 新撰組は大阪へ到着すると、会津藩の指示で京屋忠兵衛方に宿をとっていた。 人数は減りはしたが道中と変わらぬ雑魚寝の状況に、嘉一は相も変わらず頭を抱えていた。 局長と副長らは別の部屋、近藤派と芹沢派と新隊士で分かれ、合計四部屋。 吉田道場の時は斎藤と相部屋だったし、八木では個室。 ……この隊内にこんなにも寝相が悪いやつらが多いとは思わなかった。 そうしてついに大阪三日目、嘉一は涙ながらに叫びを上げた。 「んなこと言うなよ嘉一…」 「えぇいっうるさいうるさい! 夜中に蹴られるは乗られるは押し潰されかけるは…!! どうにかならないわけ!?」 その悲痛な叫びを聞いて、隣の部屋からなんだなんだと局長副長らが駆け込んでくる。 真夜中の出来事なので、皆一様に襦袢に得物を片手に、だ。 恐ろしい。 「どうした嘉一さん、何かあったか!賊か!曲者か!?」 「どうしたもこうしたもどうかしたよ!! こいつらの寝相がね!!もう嫌!無理!あり得ない!!島田君ん所で寝てやるっ! 新見副長っ下帯見えてる!!」 こんな騒ぎ散らす嘉一を見た事がない周りが呆気に取られ、新見は「おや」と襦袢を整えながら、土方がどうどう、と宥める様子をただ見守る。 「……ま、まぁ落ち着きまえ嘉一君…」 「勇さん……我慢するべき我が儘なのは分かってるんですがっ……こいつらは寝相が悪すぎます……! 夜中に叩き起こされる身になってほしいくらいっ……!!」 「嘉一さんの声もうるせぇぜ…」 「………………うっ」 それは、正論だ。 自分の声でたたき起こしてしまった上役達に申し訳なく、呆れた声色土方の言葉を聞いて、嘉一はすぐに口をつぐむ。 自分の声が他の者とは違って本の少し高音のもので、その分声を張り上げればあたりに響く事は周りに言われ知り得ている。 「……こんな刻に起こしてしまいすみません……」 頭を垂れて申し訳なさそうにそう謝るさまを見て、土方が困ったように一つ深いため息を溢す。 芹沢がふと、顎に手を添えながら 「そんなに耐えられないならってんならこっちで寝てもいいけどよ…」 と奨めはするが、嘉一はそういうわけにはいかないと首を横に振る。 いくらなんでも上役の部屋に寝るわけには。 そのあとどんな風に寝ているのかと聞かれたものだから大人しく答えてみれば、土方は顔をしかめてみせる。  
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