阪の絹糸はお幾らでっか。

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近藤が出した結論は、皆で雑魚寝。 道中引き続きまたか!と思ったが、今回は人数に比べたら確実に少ない褥に、皆でぎっしり寝転がり寝よう、と言い出したのだ。 最初こそ皆であっけらかんとしていたが、こういった類いのものが好きな沖田や原田が諸手を上げて賛成したものだから、皆流されるままに枕を並べた。 暫くして、他の連中から静かな寝息が聞けるようになると、嘉一は脇の土方を一瞥して、女子同士が密やかに内緒話をするかのように声を潜め問う。 「試衛館でも、こんな感じだったの?」 「ん…………まぁ、そうかな、つっても、正月に無礼講で酒呑んで、そのまま寝ちまうもんだからもう布団なんざぐちゃぐちゃだよ あんな風に寝転がって騒ぐってのは俺ぁ初めてだ」 「ははっ、俺も初めて……」 大阪への道中の宿場では、歩きっ通しで疲れたのだろう皆死ぬように寝ていたものだから、土方は参加しなかった寺子屋の泊まり学習かのように、こんな風になるのは初めてだった。 薄い月明かりも照らさぬほど真っ暗なものだから、土方には嘉一の表情など見えやしない。 けれど、どこか楽しそうなのは声色だけでも感じとれるもの。 つい少し前まで頭に角なんてもん生やしてそうな顔してたくせに、今はころりと顔色が変わっている。 剣を習って体を作るまで、ずっと屋敷の中に引っ込んでいた彼がこんなこと、できる筈もなかった。 幼い頃は家族が、大事な跡取りが感染病になることを酷く恐れていたものだから、同年代を呼んでお泊まり会…なんてしなかった。 むしろ寺子屋に行けない彼に友人なんておらず、たまに屋敷に来てくれるいい歳をした男教師なんかが一番彼に近い者。 それに武家に習って嘉一が小姓として傍に置いていた八実なんて、友のように一緒に寝たりなんてできる立場じゃない。 それなのに、こんなことができるなんてとてつもなく嬉しくて、嘉一の頬は自然と綻んでいた。 土方が塀を越えてきてくれて、良かったと思った。 大げさかもしれないが、彼のおかげで外の世界を知るきっかけが出来た。 ……言葉にこそしないけれど、確かに感謝していたのだ。 「けど嘉一さん…良かったのか?」 「うん?」  
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