阪の絹糸はお幾らでっか。

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「いや……あんた、本当はなかなかいいとこ出の…しかも長男だろうに」 「…………」 「旦那さんも八実の奴も……困ってんじゃないのかと思って お袋さんなんてあんたのこと相当可愛がってたもんだから… ていうか、跡取りがいなくなって困ってんじゃねぇもんかと… 生活には困らない人生だった筈なのに、貧乏な剣の道に引っ張り込んじまって、よ…… あんたはそれで良かったのかと思って」 嘉一の表情がふと変わる。 ほんの少し嫌な色をたたえた目がすっと細められる。 「……何、歳は遠回しに俺がいないほうがいいっていうの 技も光らぬたかだか農民の子が武士に憧れるなんて、身の程知らずの我が儘言ってないでさっさと江戸に帰れってぇの?」 「…………んなこたぁ言ってないよ……」 (何怒ってんだ、この人は……) 嘉一の嫌みのような言葉に返した土方の声色にもまた、少し不穏な色が含まれる。嘉一の言った言葉が、嫌に勘に触ったのだ。 けれど嘉一はそれでやめることなく、土方側に背を向けると更に吐き出すように言葉を続ける。 「……お前だって、剣が強いだけでおんなじ農民の子じゃないか」 「嘉一さんッ!そういう話じゃ……」 「寝る」 「嘉一さ…」 「寝る!」 弁解しようにも会話をしようとしない嘉一に、土方は相当苛立ったようで、小さく舌打ちすると自らも背を向けた。 「勝手にしやがれ!」 (なんつーか…………とんだ痴話喧嘩だなぁ……) くわぁ、と藤堂は大きく一欠伸して、二人共夜中にうるせぇなぁ、と心で呟き、二度、身を捩った。 (……変に仲悪くならなきゃいいんだけど……)  
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