阪の絹糸はお幾らでっか。

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「かーいっち!飯行こうぜ!!め、しぃ!!」 「ぎゃっ! ……うっ……うん?飯? いいけど……何さ、突然」 やたらピリピリとした訓練がようやく終わったものだから、疲れた体を休めようと部屋で寝転び兵法書を読んでいた。 ぴぃっぴぃっと縁側の向こうで涼しげに鳥が鳴く。 生憎この部屋にいるのは嘉一一人、のんびりその鳴き声を背景に思い思いに想像を巡らしていた。 しかしそこに私服の藤堂が飛び込んできたかと思うと、突然の外出の誘い。 何時会津からお呼び立てが来るかも分からぬのに、と嘉一が言えば、連絡があって今日から明明後日は何も無いとの事。 ならいいかな、と寝そべっていた体勢から横向きに寝返りうつと、その正面に藤堂はよいしょと座る。 「折角大阪まで来たんだから、大阪の酒飲みてぇの! こないだは俺置いてかれちまったし……」 「昼間ッから酒飲む気?」 藤堂のいうこないだ、というのは、大阪に資金調達に行ったときのことだろう。 まぁこの礼儀はあっても品行が悪い藤堂を連れていったところで、あまり資金調達には役に立たないような気がする。 向いていない、ではなく。 だから留守番だったんだろう。 しかし酒好きの藤堂らしい発言にくすくす笑っていると、少し拗ねたような表情をされる。 「だぁって、嘉一ってば親友の俺の事ほっぽっていっつも土方さんと仲良しじゃん? でも今日は珍しく一緒じゃないし、親離れ? な!たまには俺と酒呑んでくれて良くね?」 「…………あぁ、そうだなぁ……」 平助と飲む酒は美味そうだ。 嘉一がそう言えば、藤堂は腰を上げ 「よし!どこいく?どこいく? 酒も飯もうめぇとこがいいな……って言っても俺らここらへん分かんないし……ちょっと玄関で待ってろな!ひとっ走りして新八さんに聞いてくるわ!」 まるで彼女との初逢引でやたら興奮している男子のような騒ぎ様で、嵐のように去っていった友人の美男子を見送る。 恐らく広間で書き物をしている、永倉を訪ねているのだろう。 「…………んんっ……さぁて、準備しないと……」 だらだらとした動作で刀片手に畳から起き上がりそれを差し込めば、部屋の隅に立て掛けてある小刀と小銭が入った巾着袋を懐に、もう一本の太刀も腰に差す。 脇に掛けてある羽織に腕を通し、ふと、庭に視線を向けた。 (……親離れって……) 「………………そんなに俺、歳と一緒にいたかな……?」  
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