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広間で春画を眺めていた永倉に、近くの蕎麦屋が芹沢絶賛だとか評価を聞いた藤堂は、胸元に巾着が入っているのをしっかり確認して早足で玄関に向かっていた。
さっきは親離れ?なんて茶化しはしたが、正直心配だったのだ。
何と言ったって土方は、(ご落胤と自称している自分を体よく扱おうだなんて考える連中が時折いる為に)酷く注意深い藤堂をも含む一同が、ころりと騙された女装にほんの薄らとはいえ気づいた男。
これは単純に彼の観察力があったとしても、よほど二人に何かしらの絆があるからだろう。
本当は藤堂にとっては、あの二人がつるんでいなければいないほどいいのだ。
けれど、藤堂には、嘉一にとって土方が他の友人らとは違った存在なのが簡単に見てとれた。
どちらかが女なら、恋仲なのではと勘違いするほど(勿論二人は衆道じゃないからそれはあり得ない)の。
土方に多少は嫉妬するけれど、あの友にはなるべく似合う笑顔でいてほしい。
……だからこそ、変な食い違いで仲違いしたままの二人を放置して自分が得しようだなんてあり得ない。
そんなわけで、今日は観光の理由を取って付けて嘉一と二人で話す時間を上手く得たわけだ。
酒か甘味が入れば説得なんて楽勝だろう。
(まぁ嘉一は単純だからなぁ、さっさとあの二人には仲直りして貰わないと土方さんの機嫌悪くて稽古きついし
……ていうか、あの喧嘩って俺と左之さんが寝相悪くなきゃ起こらなかったよなぁ、ごめんよー……)
上手く説得してやろう、と意気込み、藤堂は玄関からひょいと顔を覗かせた。
しかし、
「……なんかいらんもんが増えてる気がする」
「平助、どうだった?永倉さん何か美味しいものあるって?」
「あ、おう!ここらへんに舌が落ちるくらいすっごい美味い蕎麦があるんだってよ!なんとあの芹沢さんお墨付き!」
「そりゃいいや、よしっ行こうか一君!」
「おい待て
………じゃない、ちょっと待って沖田さん、一も!
なんで二人がいるわけ!?可笑しくない!?俺嘉一誘っただけの筈なんだけど…!?」
(よりによって沖田さんと一だし!)
調子良く先立つ二人を引き留めて、横で突っ立ってる嘉一を指差し早口でまくし立て訴える姿に、嘉一は悪気など全くなさそうに、至極不思議げに首をかしげた。
「待ってたら声かけられた
竹刀見てきたんだって
で、折角だし一緒に行くかって誘ったんだけど……え?まずかった?」
(お前か!)
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