阪の絹糸はお幾らでっか。

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ずずーっ、ずっ、ずぅっ ずるずるずる…… 「美味しい!!なにこれすっごい美味しいんだけど!!」 「沖田さんうるせぇぇっそんな騒ぐことかよ……ってめっちゃうめぇぇぇ!!」 蕎麦猪口と箸を掲げて椅子からがたがたんと立ち上がる二人に、回りから怪訝を通り越しドン引きれの視線が突き刺さる。 こんなに頭の弱い奴らだったろうか、と嘉一は思う。 二人でこの蕎麦の魅力について語りだすと、流石の嘉一もだんだんこのドン引きされている二人がいたたまれなくなってきて、些か冷ややかな視線でそちらを見た。 (引かれてるから……もの凄く引かれてるから…お前らだけ引かれるならともかく俺まで巻き込んでくれるなよ) 「お前ら二人五月蝿いよ」 「いや、嘉一もさっさとこれ食いねぇ!この絶妙な汁の濃さに滑るように美しい喉越し…!」 「歳が連れてってきてくれた年越し蕎麦のが美味しかった」 「あああっもうこれだから土方さんの弟分は……!!」 「でも薬味が大量に入ってて薬味臭かったからこっちのが品あると思う、美味しいよ」 「あ、一それ何せいろ目?」 「十」 「嘘だろ……」 「ちゃんと二人ともお金持ってきてるんだろうね」 小さな頃から、家を継ぐとなれば下にいる多くの百姓の為にも下手な事はできぬと。 常にそろばんを弾いてきた嘉一は時折酷くけち臭い。 だから奢る気などさらさら無いとでも言う風に、沖田と斎藤に順々に視線を向ける。 「勿論、持ってるよ、お給料、少ないけど出てくれて良かったよね!」 「あぁ、だが総司……これは近藤先生や土方さんや山南さんがせっせと切り詰めて私たちに寄越してくれてるんだ 大切に」 「ほとんどご飯と刀の道具に消えるだろう一君にだけは言われたくないんだけどなぁ」 芹沢派は綺麗に除いた斎藤の言葉を、沖田が笑ってそう遮った。 すると、興味深そうに藤堂が台に伏せていた体をゆっくら起こす。 「皆、初任給は何に使った?」 すれば沖田がにこにこ笑いながら懐から布包みを取り出して 「僕はさっき簪を買ったよ、まぁ高いやつじゃないんだけど 折角だし姉上に送ろうかと思って」 「私は…刀の鍔を買ったな、総司も買ったろう」 「?うん、買ったよ?何気づいてたの…」 「うっそ!見して見してー二人とも何からしいなぁ」 見せてやろうと斎藤がせっせと下げ緒を解いていると、沖田がちらり、嘉一を見た。 「嘉一君は?」  
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