阪の絹糸はお幾らでっか。

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「あっそれ俺も気になるなぁ、嘉一はどんなの買ったんだよ?」 「………………あっ、そういえば何も買ってない」 暫しの記憶の探索の後、そう答えれば信じられない!とでも言うように沖田が目を瞠目させる。 火事が多いこの時代には、(勿論しはするが)貯金とかいう観念が薄いのだ。 それに、いくらけち臭いとはいえいいとこ出なこの男には欲しいものが多いだろうから、何かしらは買っているだろうと思っていた節もあった。 それを見透かしたように、蕎麦を箸に絡めながら嘉一は続ける。 「別に庄屋の子だからって、金遣いが荒いわけじゃないよ それはよく知ってるだろ?」 「まぁ常日頃見事なくらい倹約家の君を見てれば、そうだね」 「しかも今月は大阪遠征の費用がかかるから、余計にね」 生まれの為か隊のきつい金銭面の方を任されている嘉一は、綺麗好きの斎藤に向けて褌をもうちょっと使い回せだとか、墨はぎりぎりまで薄めて使えだとか、夜中に油を多量に使うなだとか、果てにはあの芹沢らに島原通いを控えろだなんて言う始末。 まぁ周りで見ていた連中は心の臓が飛び出るようなはらはらとした思いをさせられていたが、なんと見事、島原通いの頻度が減ったのだ。 周りの連中はもう皆(嘘だろ……)だ。 「我が儘していいならするさ…… でも今俺らにはそんな余裕ないんだから、早く隊を大きく名高くしてもらわないと ……まぁ、小さかろうと大きかろうと俺らがやることの根元はなーんも、変わらないんだけどね」 そこで話を途切れさせると、嘉一は巻き付けていた蕎麦を汁に浸らせ口に運ぶ。 確かに、二人が絶賛するだけあってそこらの蕎麦より凄く美味しい、一体どんな麦なんだろうか。 「じゃあまずその発展の為にも、嘉一君は土方さんと仲直りしないといけないね」 「げふっ」 「えっ何沖田さん気づいてたの…!」 「あ、やばい鼻に入っ……あ゛ぁー!」 「そりゃあ、嘉一君はそうは見えないけど、なんか二人とも苛々ぴりぴりしてるじゃない……」 「ちょっ…あぁぁっもう……一!一!蕎麦が逆流した……って聞いてないし! すいません厠何処ですか!!」 「なんなら何も買う予定がないなら、初任給で一緒に摘まみながら話せるような食べ物でも買っていったらいいじゃない まぁ土方さんは食わず嫌い……」 「…………ん?嘉一どこいった?」 「………………あれ?」  
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