阪の絹糸はお幾らでっか。

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この親切な男はすらりとした長身で、きりりとした狐のような細目に浅黒い肌、少し色素の薄い、薄暗い髪に藍色の手拭いを粋に巻きつけていた。 パット見、三十路と少し。 外見はどう見ても商人だというのに、見た目限りとはいえ武士の自分に何の腰引けの様子も見えない。 なんだか尊敬できる度胸だと思いながら、嘉一はその男の背中を追いかける。 「……ここいらは、いりくんでるけん 俺は京坂には詳しいんやけど……慣れん奴はよう迷う……気をつけなあかん」 大通りが先に見えると、見覚えのある店が並んでいる。 となれば、この薄暗い男とも別れることになるのだが…… (うぅん、なんか少し惜しいなぁ……) 以前から隊内で話に出ている、監察に欲しい類いの人材だ。 どうやら普通の奴に比べれば随分無口で大人しいみたいだし、商人となれば資金繰りに詳しい者も多い。 監察候補の島田は永倉の知り合い…ようするに江戸の出だし、この辺りの地形に詳しい人間が欲しいところ。 (…………ま、無理だよなぁ) 「……ん?」 「?どうしたんです」  
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