993人が本棚に入れています
本棚に追加
この親切な男はすらりとした長身で、きりりとした狐のような細目に浅黒い肌、少し色素の薄い、薄暗い髪に藍色の手拭いを粋に巻きつけていた。
パット見、三十路と少し。
外見はどう見ても商人だというのに、見た目限りとはいえ武士の自分に何の腰引けの様子も見えない。
なんだか尊敬できる度胸だと思いながら、嘉一はその男の背中を追いかける。
「……ここいらは、いりくんでるけん
俺は京坂には詳しいんやけど……慣れん奴はよう迷う……気をつけなあかん」
大通りが先に見えると、見覚えのある店が並んでいる。
となれば、この薄暗い男とも別れることになるのだが……
(うぅん、なんか少し惜しいなぁ……)
以前から隊内で話に出ている、監察に欲しい類いの人材だ。
どうやら普通の奴に比べれば随分無口で大人しいみたいだし、商人となれば資金繰りに詳しい者も多い。
監察候補の島田は永倉の知り合い…ようするに江戸の出だし、この辺りの地形に詳しい人間が欲しいところ。
(…………ま、無理だよなぁ)
「……ん?」
「?どうしたんです」
最初のコメントを投稿しよう!