阪の絹糸はお幾らでっか。

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「…………なんかあれ…怪しゅう思わん?」 「えぇ?」 「……あれや、あれ……」 「はぁ」 男が指さす方に視線をやれば、ただの道。 「俺には、別に何も……………ん?」 特にこれといった目立った異変も感じられず男の話を否定しようとするが、ふと、異様な雰囲気を感じとる。 別に何か殺傷沙汰やらが起きたそうな風ではないのだ、ただ何かがおかしい。 遠巻きに人が眺めているところを見ると、町人の喧嘩か見世物か……はたまた高札か、罪人の首でもかかってるのか。 嘉一と男は町人らより更に遠巻きにそれを眺めながら横を通り抜けて行こうとする。 が、その時どうにも今立つ立場的に放ってはおけない言葉が耳に飛んできて、ふと足が止まった。 突然歩みを止めた嘉一に男は横から不思議そうに視線を向けたが、大方物見で止まったのだと思ったらしく同じくぴたり足を止める。 「何じゃ、何じゃ、会津藩士は、脳がのうて……いかんのぅ!」 (今のは洒落か?) 顔は見えやしないが、会話から、恐らく会津藩士を相手にしてけらけら笑いながら罵る男。 「おのれっ、反幕攘夷などという言葉のみじゃ飽きたらんで、我らまで愚弄すっか!!」 会津訛り。 それを把握した嘉一はどう処理しようか悩み出すが、男は心底うんざりとした様子で眺めている。 どうしたのかと思えば、呟くように男は口から言葉を漏らした。 「何や……またかいな……」 「また?」 「…………」 「ねぇ、またってどういう?」 「んん………… 今将軍が来ててなぁ……その護衛に会津藩士らが来とるんやけど……」  
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