阪の絹糸はお幾らでっか。

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男によって説明される言葉のいくつかに、嘉一は思わずうっと唸らざるを得なくなる。 頭ががちんがちんにお堅い会津藩士が警護で大阪に来てから、何かあるとすぐに犬猿であるかのように尊攘の志士との間に騒ぎが起こり、下手をすれば流血沙汰になるらしい。 ……会津も尊皇攘夷に違いはない筈なのだが……まぁ、幕府に対する好感度によるものか。 「じゃったら、何じゃ? こぉんな、会津藩士が、頭に乗っとるようなもんじゃあ……幕府も呆れたもんじゃ……ショーグン様にも、同情せざるをえんのぅ」 「何だと、田舎もんが!」 「頭に乗ってるのはお前だべ!お前みてぇな輩が将軍様を貶すなんて許さんぞっ」 会津も十分田舎だろ……なんて勿論ぼこられそうなので口が裂けても言えやしなかったが、一応江戸育ちの嘉一はそう感じたわけだ。 ……しかし殺傷沙汰になっては不味い。 土佐弁の男も会津藩士も流石に人目があるものだから、今のところはまだそこまでには至ってはいないが、どちらかぷっつんといったら…… 「金魚の糞じゃの」 何て言っている間に、決定打。 ぷつんときたのは、 「いっ、いけないっ!」 会津藩士だ。 刀が鞘と擦りあって涼しい音を立てたかと思えば、一気に刀身が引き抜かれる。 あっという間の抜刀に続けて、向こう側の浪士も刀を抜き構えだす。 先に会津側が抜刀したとなれば、向こうの人間に斬られても何も言えぬ状況に落ちる。 嘉一は咄嗟に、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出す人々の合間を縫って、擦り切れかけた草履で鞘に手を添え逆走した。 「兄ちゃん……!? ……いかんっ…」  
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