阪の絹糸はお幾らでっか。

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相手方の浪士は三、会津はニ。 不利とは言い切れないが、いかんせん、ここで私闘まじりに浪士を切り、大阪の人々からの評判が地に落ちるのはあまりこちらとしてもよろしくないのである。 だから、下げ緒を解いて鞘ごとの刀を片手にあっという間に間に割りいったかと思えば、降り下されそうとした刀身を受け止めた。 ギンッ、と音がして、鞘の欠片が少し、無惨に地面にぼろぼろとこぼれ落ちる。 「将軍がいらしてる土地で騒ぎを起こすなんて止めなさいッ!!」 浪士を背後におくのには不安もありはしたが、それを悟られぬよう威勢よく会津藩士へと一喝する。 すれば、突然の乱入者に会津藩士二人の顔に動揺が走った。 「おっ、お前は……」 「んん! 知っている……確か壬生浪士組の……」 「ああっあの道中今にも寝そうなひ弱な男……」 「あっ、あれはいろいろあって……!」 まさか此処でそれを掘り返されるとは思ってもいなく、嘉一は羞恥で些か怒りの混じった声で反論する。 しかし、この一介の会津藩士にも壬生浪士組の名前が伝わっていることに少し感激する。 これは悪い傾向じゃあない。 このままこの名が広まることは、上手くいけば幕府の人間が目を止めてくれる可能性も高くなるのだから。 ごほん、と嘉一は仕切り直すように一つ咳払いをすれば 「大阪の地を人の生き血で染めることは家茂公も望んでおられぬ筈……ここは一つ、私に免じて…とは言えませぬが、どうかこの刀をお納めくださいまし」 嘉一がそう言えば、渋々ではあったものの打ち込んでいた刀を一旦どかして構えを下段に下ろす。 「どうかそちら様も」 嘉一もそれを見て刀を下ろし、振り返って浪士連中を見た途端、思わず目を見開いた。  
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