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死体には既に麻布が被されていたが、正直近藤もそれをめくる気にはなれやしない。
しかし仏になれば敵も味方もありはしない、そっと手を合わせた。
その時。
「勇さん……?」
そう声が聞こえて、皆が弾かれたようにそちらを見る。
縛られてはいなかったが、刀は没収されたらしくどちらも手元にはありはしなかった。
「嘉一君!…大事無いか?」
近藤がすぐにそちらに駆け寄って、屈み、嘉一の両腕に自らの手を添えて顔を覗きこんでやる。
睫毛を揺らすだけで何も言葉にしない姿を見て、ん?とえくぼを見せれば、涙腺が決壊したかのように、赤くなっていた目から止めどなく涙が溢れだす。
「ごめ……ごめんなさいっ……!
こ、こんな時に評判を落とすようなこと……すべきじゃないのに……俺は……!」
袴をきつく掴み僅かに嗚咽交じりに言葉を繋げる姿を見て、近藤は思わずぐっと唇を噛み締める。
男なら泣くものではない、と言うべきなのだ、何があっても強くあれ、と。
この子のことをよく知っている、自分の杯を交わしあった弟分ならばそう言うだろう。
幼い頃から共にいた沖田なんて、そのせいでやたら達眼とした子になったくらいなのだから。
しかし自分ではそう言ってやることが出来ない。
言ったところで、彼の心には響きはしないからだ。
「オメェも男なら泣くんじゃねぇよ、嘉一さん」
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