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昼間にも関わらず、酷く冷える日だった。
普段自らを罵ってくる馬鹿共に珍しくも飯に誘われ、凍える大阪の道を歩いていた岡田は、運が悪いことに厄介な騒ぎに巻き込まれる。
連れの同志と会津藩士が、まるで口の裏を合わせたかのようにばったり目の前にぶつかり合ったのだ。
しかもどちらも道を譲らないものだから。
次第に口喧嘩、まぁこれは岡田もムカついたので参戦したのだが、終いには互いに全員が刀を抜き出す。
大方こんな事があると思った故に自分を連れてきたのでは、と岡田が思うほどトントン拍子に。
けれどそこに風を読まない乱入者、しかし顔を見れば、思わず岡田の口元も緩む。
「岡田…………人斬り、以蔵……!!」
震える唇が自らの名前を紡げば、岡田の唇は三日月を象った。
(やっと!)
しかし最高の再会というには、この男の背後に立つ不粋な男達が、いる。
すぐに男の脇をすり抜けて、刀を振るった。
その刀越しに感じるぶつんと肉を絶つ感触にはもう慣れすぎてしまっていて、何も心には浮かばない。
けれど、地面に転がる惨めな二つのモノを見た目が揺れて、必死に悲鳴を押し殺す様子を見て心臓が音を鳴らす。
それで改めて、気づいた。
やはり自分はこの男を斬りたいのだ、と。
今までこんな事を考えたことはない、誰を特別斬りたいなんて、思ったこともない。
ただ命じられたままにその者を老若問わず、ただ斬り伏せてきた。
けれど。
「覚えていなきゃあ、まだ見逃せたんじゃが…………名前まで……知っとるんじゃあ、容赦はできんのう
…………ま、恨まんどくれや」
そう次々と殺す理由付けをして、密かに腹を数度、擦ってからいざ斬ってやろう。
けれど自分より先に、脇の二人が鯉口を切ってしまったものだから。
(小太刀じゃあないのか。)
あのとき自分を斬ったものじゃあないのか。
しかし弱いとはいえそれなりの実力を持つ筈の連中をさらさらと流した男を見て、あれほどの実力だったのかと驚く。
けれど、やはりわきが甘いのだ、天性の実力の持ち腐れ……実戦が、まだまだ足りぬ。
(!)
しかし自ら斬られると把握したその瞬間。
男の刃は戸惑いもなく、自らに敵するもの体を引き裂いた。
「あ…………!!!」
刃に倒れた男を見て、ぐっと大きく目が見開らかれる。
手が震え、膝が地についた。
それでも刀は離さぬまま。
「…う…っ、……っ……!!」
(……斬るんは、初めてか)
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