蔓草紫藤、合わせりゃ彼の心内。

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「ねぇ……歳、俺何となく分かった気がしなくもない」 「あんだって?」 怪訝そうに、土方が言う。 「何て言うか、甘かったのかねぇ、そりゃあ、あんたもあぁ言うよなぁ 刀を確かにこの手で握った時点で、もうその可能性については片隅においてなくちゃいけなかったんだ そしてお前を追って京に行くと決めた時点で、もう覚悟してなくちゃいけなかった」 「…………聞きたくないが、その覚悟は、なんの」 「………………人の椿を、落とす覚悟」 そう眉を八の字にしながら微笑めば、それを見た土方の目がぐっとつり上がる。 「……馬鹿言ってんじゃねぇべ」 「…………はは、歳の武州訛り初めて聞いたよ」 嘉一はただ、感情も大して篭らない瞳で宿場の曇り空を見上げる。 大阪のとある奉行所で役人らに一通り事の顛末を説明すれば、一先ず保留、と致された。 あくまで嘉一が斬ったのは尊攘派の不逞浪士を一人、と曲げなければ、大阪に来た心得と違いはないとされ、幸いにも目立ったおとがめをくらいそうな気配はなかった。 どうやら先日から開国派の幕府高官、役人など要人の暗殺、暗殺未遂が続いていたらしい。 その為に奉行所も捜査には乗り出していたようで、この度の会津藩士への斬り口の癖が一致するとのこと。 少し右に流れる、しかし確実に急所を狙って放たれる剣劇。 けれど嘉一が大阪に降りたのはつい三四日前、ならば斬ったのは、舟山嘉一ではなく対峙していた浪士。 また再度、今度は浪人の人相書きの協力としての出頭を頼まれはしたが、事なきを得て安心する組員達に釈放祝いと団子を積まれ、あまりの量に斎藤らに助けを求め食いきった。 けれど嘉一の心は未だに晴れず。 斎藤らが一晩かけて山で捕ってきたとか抜かす猪鍋を箸でつつきながら、嘉一はあの男の去り際を一瞥だけした、あの笑みを閉じた瞼に映す。 (…………岡田以蔵、あいつは一体何のためにあの刀を振るってるっていうんだ? 何のために、一体何人を斬っているのさ……) まだ、嘉一にはそれを見つけることは出来ていなかった。 確かにそれは頭にあるのに、不思議と自らが刀を振るう理由に当てはまりはしないのだ。 隣で何ら躊躇なく猪の肉に歯を立てる男を一瞥し、何でだろうなぁ、と呟いた。  
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