生きるか死ぬか。

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「はじめまして、どうもこんにちは。 俺は八戸泉といいます。 ちなみにこの漢字ではちのへいずみと読みます、ね、面白いでしょう。 あっ、愛読書は五輪書です。 好きなものは、剣道です、愛してる」 「……うぅん、妹よ、俺は今腸が煮えくり返りそうだ 理由は分かるかな?」 心底どうしたものかと、泉は本気で呆れ返ったように呟いた。 テーブルを挟んだ正面に座るのは、明日香といって。今どきツインテールを推しているが、性格ヨシ、成績優秀、目を見張るほどの美少女、と一応は一家の自慢の妹ではある。が。 ちなみには泉は炊きたてほかほか入学したての大学一年目。しかし妹は二つ下の今年で高校二年生で、埼玉県南部在住の泉たち家族の中で唯一、近場の駅から電車を利用し東京に通学している。 故に東京の大きな店での買い物を頼まれることも多かった。 すれば、泉は今まで手に持ち眺めていた長方形のそれを透き通る硝子製の大きな机に置くと、今度は苛立たしげに爪でこつこつとその机を叩き始める。 「はい隊長!存じ上げております!」 「よしでは買い直してきたまえよ」 「しかし隊長、これも立派な新選組であります!」 本来なら大学の入学式から帰宅した泉を待っていたのは、都会通いの妹に頼んだ新選組の小説の筈だった。 待ちに待ちかねた尊敬する浅田次郎先生の、壬生義士伝の下巻である。 しかし、待っていたのは… 「だからってなんでこんなもん買ってくるんだよお前は…!」 バアァン!と勢い良く机を叩くと、目の前のゲームパッケージが飛び上がり、落ちる。 しかも家に置いていない、最新ゲーム機器で利用可能とあるそのパッケージには、浅葱のダンダラ羽織を羽織った腹が立つ程のイケメンどもが並んでいて、泉はちりちり痛む手を振りながら、激しく舌を打って鳴らす。 いや、しかし泉も別に恋愛ゲームを否定するわけではない、なんといっても高校時代の彼女も隣でそれをやっていたのだ。 素直に謝れば許してやるつもりだった、しかし妹は胸を張って高々と宣言する。 「そんなのイケメンがいっぱいいるからだよ!」 「黙れや馬鹿野郎め…!」  
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